結論 連絡が取れない相続人を除外して、残りの相続人だけで遺産分割協議を成立させることは原則としてできません。ただし、住所が判明しているのに返事がない場合は遺産分割調停・審判、所在自体が分からない場合は不在者財産管理人、生死不明が長期間続く場合は失踪宣告というように、状況に応じた解決方法があります。
「兄弟の一人と何十年も連絡を取っていない」「戸籍上は相続人だが、今どこに住んでいるのか分からない」「住所へ手紙を送っても返事がない」。このような事情があると、遺産分割、預貯金の解約、不動産の名義変更や売却が止まりやすくなります。
もっとも、「音信不通」と一口にいっても、電話番号を知らないだけのケース、住所は分かるが返事をしないケース、住民登録上の住所にも居住しておらず所在不明のケース、生死自体が長年不明のケースでは、選ぶ手続が異なります。
この記事では、相続手続きの流れも踏まえ、相続人と連絡が取れない場合の調査方法と法的手続を、熊本の高石法律事務所が順に解説します。
1 連絡が取れない相続人を除外して遺産分割はできない
遺言で取得者が決まっていない遺産を協議で分けるには、共同相続人全員、またはその適法な代理人・財産管理人等が参加し、合意する必要があります。相続人の一人を除外して作成した遺産分割協議書は、原則として有効な遺産分割協議書として扱うことができません。
そのため、残りの相続人だけで署名・押印しても、通常はその協議内容に基づく預貯金の解約や相続登記を進めることはできません。疎遠であること、長年連絡していないこと、相続分が少ないことだけを理由に、相続権がなくなるわけでもありません。
例外・別手続 有効な遺言によって取得者が定められている財産は、遺産分割協議をせずに手続できる場合があります。また、法定相続分による登記、相続人申告登記、遺産分割前の預貯金の仮払いなど、遺産分割の成立前に行える限定的な手続もあります。遺言の有無と内容は最初に確認しましょう。
まず「連絡不能の状態」を4つに分ける
| 現在の状態 | 主な初動 | 次に検討する手続 |
| 電話・メールを知らない | 戸籍・戸籍の附票等で住所を調査し、書面を送る | 任意の遺産分割協議 |
| 住所は分かるが返事がない・協議を拒む | 記録が残る方法で連絡し、期限を区切る | 遺産分割調停・審判 |
| 旧住所を離れ、所在が分からない | 調査経過を整理し、生存・所在の手掛かりを確認する | 不在者財産管理人の選任 |
| 生死が7年以上不明など | 最後に生存が確認できた時期と資料を確認する | 失踪宣告を慎重に検討 |
2 最初に行う相続人調査と住所調査
2-1 戸籍で相続人全員を確定する
まず、被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍を収集し、相続人を確定します。認知された子、養子、先に亡くなった子の代襲相続人、兄弟姉妹相続におけるおい・めいなどが判明することもあります。
「家族が把握している人」と「法律上の相続人」が一致するとは限りません。住所調査に入る前に、誰を調べる必要があるのかを戸籍で確定させることが重要です。
2-2 戸籍の附票などから現在の住所をたどる
戸籍の附票には、その戸籍が作られてからの住民登録上の住所履歴が記録されています。本籍地の市区町村へ請求し、現在の住民登録上の住所を確認できれば、まずはその住所へ連絡します。戸籍が転籍・改製されている場合は、複数の附票や除附票を順にたどることがあります。
ただし、戸籍の附票を取得すれば必ず本人に会えるわけではありません。住民登録を移さずに転居している、海外に長期滞在している、記録の保存期間や記載範囲の問題があるなど、現在の居所まで判明しないこともあります。
戸籍・住民票関係の証明書は、第三者が自由に取得できるものではありません。相続人としての利害関係や請求理由を示す必要があります。弁護士は、受任した事件の処理に必要で法令上の要件を満たす範囲で、職務上請求等を検討します。
2-3 判明した住所へ、回答しやすい書面を送る
住所が分かったら、いきなり署名・実印の押印を求めるのではなく、まず相続の発生と連絡を求める理由を簡潔に伝えます。最初の書面には、次の事項を入れるとよいでしょう。
1 被相続人の氏名、死亡日と、差出人との関係
2 受取人が相続人に当たると考えられる理由
3 判明している遺産の概略と、遺言の有無
4 協議を始めたい旨、連絡方法、無理のない回答期限
5 相続放棄や相続税申告など、期限が迫っている場合はその事実
配達記録が残る方法を用い、返送された場合は「宛所に尋ねあたらず」「保管期間経過」などの返送理由も保存します。これらは、その後の調停や不在者財産管理人選任申立てで、どのような調査・連絡をしたかを説明する資料になります。
3 住所は分かるが返事がない場合は遺産分割調停・審判
現在の住所や居所が分かっているのに、手紙を無視する、協議を拒む、提示条件に応じないというだけでは、通常、その人は不在者財産管理人を選任すべき「不在者」には当たりません。この場合は、遺産分割調停を申し立てることが基本的な選択肢です。
遺産分割調停は、共同相続人の一人または複数人が、他の共同相続人全員を相手方として家庭裁判所に申し立てます。原則として、相手方の一人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意した家庭裁判所が申立先です。被相続人が熊本に住んでいたという理由だけで、必ず熊本家庭裁判所になるわけではありません。
調停では、裁判所が各当事者から事情と希望を聴き、資料を確認しながら合意を目指します。話合いがまとまらず調停が不成立になると、原則として審判手続へ移行し、裁判官が遺産の内容や各事情を考慮して分割方法を判断します。
遺産分割の基本については、「財産分配の遺産分割とは?」もあわせてご覧ください。
4 所在自体が分からない場合は不在者財産管理人
相続人が従来の住所・居所を離れ、現在の所在が分からず、容易に戻る見込みがなく、その人が自ら財産管理人を置いていない場合、家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。
不在者財産管理人選任の一般的な流れ
1 戸籍・戸籍の附票、返送郵便、親族への確認結果など、所在調査の経過を整理する。
2 不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所へ選任を申し立てる。
3 家庭裁判所が不在の状況、財産、候補者の適否などを調査し、管理人を選任する。
4 管理人が不在者の財産目録を作成し、財産を管理・保存する。
5 遺産分割協議への参加など管理権限を超える行為について、管理人が家庭裁判所へ権限外行為許可を申し立てる。
6 許可された範囲で管理人が協議に参加し、成立後の登記・預貯金手続等を進める。
管理人は他の相続人のために選ばれる代理人ではない
不在者財産管理人の役割は、不在者本人の財産と利益を守ることです。他の相続人が希望する協議書へ形式的に押印する人ではありません。遺産分割案が不在者に不利であれば、管理人が同意しない、または家庭裁判所が権限外行為を許可しない可能性があります。
実務上の注意 不在者の取得分を法定相続分より少なくする案、不動産評価の根拠が弱い案、代償金の支払確実性に問題がある案などは、慎重な検討が必要です。裁判所の許可を得られる内容を見据えて、評価資料や分割条件を準備します。
申立てには収入印紙・郵便料がかかり、事案によっては管理人の報酬等に充てる予納金を求められることがあります。金額や期間は、管轄裁判所、財産の内容、候補者の有無、調査状況によって異なるため、一律に「何か月・いくら」と断定することはできません。
なお、「相続財産清算人」は相続人の存在が明らかでない相続財産を清算する制度であり、相続人の一人が所在不明である場合の「不在者財産管理人」とは別の制度です。
5 生死不明が長期間続く場合は失踪宣告を検討
不在者の生死が7年間明らかでない場合は普通失踪、戦争、船舶の沈没、震災など死亡の原因となる危難が去った後1年間生死不明の場合は危難失踪として、利害関係人が家庭裁判所へ失踪宣告を申し立てることができます。
失踪宣告が確定すると、普通失踪では7年の期間が満了した時、危難失踪では危難が去った時に死亡したものとみなされます。単に「7年連絡がない」だけで自動的に死亡扱いになるわけではなく、申立てと裁判所の手続が必要です。
死亡とみなされる時点で相続関係が変わる
| 死亡とみなされる時点 | 被相続人との前後関係 | 相続関係の考え方 |
| 被相続人の死亡より前 | 不在者が先に死亡した扱い | 不在者が被相続人の子などであれば、その子が代襲相続人になる場合があります。 |
| 被相続人の死亡より後 | 不在者が被相続人を相続した後に死亡した扱い | 不在者が一度相続し、その相続分を不在者自身の相続人が承継する数次相続になります。 |
失踪宣告は、婚姻や相続を含む身分・財産関係に重大な影響を与えます。後に本人の生存が判明して宣告が取り消される場合もあり得るため、単に遺産分割を早く終わらせたいという理由だけで安易に選ぶべき制度ではありません。不在者財産管理人とどちらが適切か、死亡とみなされる時点を含めて検討します。
6 放置する主なリスクと期限
6-1 数次相続で関係者が増える
未分割のまま相続人の一人が死亡すると、その相続人の配偶者や子などが地位を承継します。さらに相続が重なると、面識のない親族が多数関与し、必要な戸籍、連絡先、意向確認が増えて、解決に時間と費用がかかります。
6-2 相続税の申告期限は原則10か月
相続税の申告・納付期限は、遺産分割がまとまっていなくても、原則として被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。未分割の場合は、法定相続分等に従って取得したものとして申告・納付することになります。
未分割財産については、当初申告で配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できないことがあります。期限内申告に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、後に期限内に分割して更正の請求等をする方法がありますが、要件と期限の管理が必要です。税務は税理士とも連携して進めます。
6-3 相続登記は2024年4月から義務化
不動産を相続したことを知った相続人は、原則として、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。2024年4月1日より前の相続でも、同日時点で相続による所有権取得を知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに対応が必要です。
遺産分割が終わらないときは、法定相続分による相続登記や相続人申告登記により、まず申請義務を履行する方法があります。ただし、これらは誰が不動産を最終的に取得するかを確定する手続ではなく、不動産全体の売却等を自由に行えるようにするものでもありません。遺産分割成立後には、その内容に沿った登記を別途行います。
6-4 特別受益・寄与分は相続開始から10年に注意
遺産分割そのものが10年でできなくなるわけではありませんが、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として、特別受益や寄与分を反映した具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分によることになります。例外もあるため、主張を検討している場合は期限前に手続を進めることが重要です。
7 解決までの実践的な進め方
1 遺言書の有無を確認し、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めて相続人を確定する。
2 遺産と債務を調査し、不動産、預貯金、有価証券、借入れ等の一覧を作る。
3 連絡が取れない相続人の戸籍の附票等をたどり、現在の住所・居所を調べる。
4 書面を送り、配達・返送・回答の記録を保存する。
5 住所が分かるが協議できないのか、所在不明なのか、生死不明が長期化しているのかを分ける。
6 遺産分割調停・審判、不在者財産管理人、失踪宣告から適切な手続を選ぶ。
7 相続税、相続登記、相続放棄、具体的相続分の期限を並行して管理する。
相談時にあると役立つ資料
1 被相続人と相続人の戸籍、住民票、戸籍の附票
2 遺言書、遺産分割協議書案、相続関係説明図
3 固定資産税納税通知書、登記事項証明書、通帳・残高証明書
4 連絡が取れない相続人へ送った手紙、封筒、配達記録、メール等
5 最後に連絡が取れた時期、当時の住所、勤務先、親族等の手掛かり
6 相続税申告、相続登記、相続放棄などの期限が分かる資料
8 弁護士へ依頼するメリット
連絡が取れない相続人がいる案件では、単なる連絡先調査だけでなく、相続人・遺産の確定、初回連絡の内容、裁判所手続の選択、相続税・登記期限への対応を一体として考える必要があります。
高石法律事務所では、熊本県内を中心に、相続人調査、書面による連絡、遺産分割交渉・調停・審判、不在者財産管理人選任申立て等のご相談に対応しています。申立先が熊本県外になる可能性がある場合も、まず管轄と必要な手続を整理します。
1 受任後、必要性と法令上の要件を確認した上で、戸籍・住民票関係資料の調査を進める
2 相手方が回答しやすく、後の手続にも利用できる連絡書面を作成する
3 遺産分割案と証拠資料を整理し、交渉から調停・審判まで代理する
4 不在者財産管理人選任と権限外行為許可に必要な資料・分割案を検討する
5 司法書士・税理士等との連携が必要な範囲を整理する
よくある質問
Q1 相続人と何十年も連絡がなくても、除外できませんか?
原則として除外できません。疎遠であることや連絡がないことだけで相続権は失われません。戸籍上の相続人を確定し、本人、適法な代理人、不在者財産管理人等が参加できる状態を作る必要があります。
Q2 住所は分かりますが、手紙を無視されています。不在者財産管理人を選べますか?
単に返事をしない、協議に反対しているという事情だけでは、通常は不在者財産管理人の制度ではなく、遺産分割調停・審判を検討します。不在者財産管理人は、従来の住所・居所を離れ、所在が分からず、容易に戻る見込みがない人の財産を守る制度です。
Q3 不在者財産管理人が選ばれれば、すぐ遺産分割協議書へ押印できますか?
できません。管理人が遺産分割協議へ参加・同意するには、通常、家庭裁判所の権限外行為許可が必要です。分割案が不在者の利益を害さないか、評価や支払条件を含めて審査されます。
Q4 7年間連絡がなければ、自動的に死亡扱いになりますか?
自動的にはなりません。生死が7年間明らかでないことなどの要件を満たした上で、利害関係人が家庭裁判所へ申し立て、失踪宣告を受ける必要があります。単なる疎遠や返信拒否とは区別されます。
Q5 熊本で相続が発生したら、熊本家庭裁判所へ申し立てますか?
手続によって異なります。遺産分割調停は相手方の一人の住所地等、不在者財産管理人と失踪宣告は不在者の従来の住所地・居所地の家庭裁判所が原則です。被相続人の最後の住所だけでは決まりません。
Q6 遺産分割前でも相続登記はできますか?
法定相続分による相続登記や相続人申告登記は可能です。これにより相続登記の申請義務へ対応できる場合がありますが、最終的な取得者を確定するものではありません。協議内容に沿った単独所有への登記や売却を行うには、別途遺産分割等が必要です。
Q7 連絡が取れない相続人がいても、預貯金を一部払い戻せますか?
一定範囲では可能です。各共同相続人は、民法上の仮払い制度により、相続開始時の預貯金額の3分の1に自己の法定相続分を乗じた額について、金融機関ごとの上限150万円まで単独で払い戻しを受けられる場合があります。金融機関所定の資料が必要で、払い戻した額は後の遺産分割で考慮されます。必要額が大きい場合は、家庭裁判所の仮処分も検討対象です。
Q8 有効な遺言書があれば、行方不明の相続人を探さなくてもよいですか?
遺言で特定の財産の取得者が定められていれば、その財産について遺産分割協議が不要な場合があります。ただし、遺言に記載のない財産、遺言の有効性、遺言執行、遺留分など別の問題が生じることがあります。遺言書全体を確認して判断します。
まとめ|相続人と連絡が取れないときは、状態の見極めが重要
相続人と連絡が取れない場合、その人を除外して協議を進めるのではなく、まず相続人調査と住所調査を行い、「住所は分かるが応答しない」「所在が分からない」「生死が長期間不明」のどれに当たるかを整理します。
その上で、任意の連絡、遺産分割調停・審判、不在者財産管理人、失踪宣告を使い分けます。相続税10か月、相続登記3年、特別受益・寄与分に関する10年などの期限は、連絡が取れないことを理由に止まりません。
高石法律事務所へのご相談 「相続人の住所が分からない」「手紙を送っても返事がない」「どの裁判所手続を選ぶべきか分からない」という方は、資料がそろっていない段階でもご相談ください。状況と期限を確認し、必要な調査と手続の順序を整理します。
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